「シャッターを押したら,すぐに結果が見たい」. それが当たり前になった時代に,「24/36」はあえて1時間の「待つ時間」を設けています.ダウンロードしてくださった方から,「なぜすぐに確認できないのですか?」と尋ねられることもあります.
もちろん,技術的には瞬時にエフェクトをかけて表示させることも可能です.しかし,私はそうしませんでした.なぜなら,この「待つ時間」こそが,私がこのアプリで最も届けたい体験だからです.
期待感を育む「余白」
かつてフィルムカメラが主流だった時代,写真を撮るという行為には,必ず「待つ」というプロセスが伴いました.フィルムを撮り終え,写真屋さんに預けてから数日間.「うまく撮れているだろうか」,「あの時の笑顔は写っているかな」と,想像を巡らせる時間.
この,結果がわからないドキドキする時間こそが,写真への期待感を最大限に高めてくれていたのではないでしょうか.
「24/36」の1時間は,その体験を現代に蘇らせるための「余白」です.撮影という行為と,結果を見るという行為の間に意図的に空白の時間を作ることで,一枚一枚の写真が,ただの画像データではなく,期待感に満ちた「作品」へと変わっていくのです.
記憶を反芻する時間
1時間の現像時間は,撮影した記憶を頭の中で反芻し,熟成させるための時間でもあります.
すぐに写真を確認できてしまうと,私たちは「撮った」という行為に満足し,その瞬間のことをすぐに忘れてしまいがちです.しかし,写真が見られない時間があることで,「あの時,どんな気持ちでシャッターを切ったんだっけ」,「あの場所の空気はどんな感じだったかな」と,撮影した瞬間の感情や情景をより深く心に刻み込むことができます.
そして1時間後,写真という具体的な形になった思い出と再会した時,その喜びは倍増するのです.
「24/36」は,ただ写真を撮るアプリではありません.写真を撮るという行為を取り巻く「時間」そのものを,豊かに味わうためのアプリです.タイパ(タイムパフォーマンス)とは真逆の思想ですが,この非効率な時間にこそ,デジタル社会が忘れかけている贅沢が詰まっていると,私は信じています.


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