「24/36」の色調選択画面で,最もベーシックな選択肢,「使い捨てカメラ」. 多くの方が,これを「エフェクトなし」あるいは「ノーマルモード」だとお考えかもしれません.しかし,実はそこには,ささやかなこだわりが隠されています.
この色調は,単にスマートフォンで撮影したままの画像を表示しているのではありません.私が目指したのは,1990年代から2000年代にかけて,誰もが一度は手にしたであろう,あのプラスチック製のレンズ付きフィルム,いわゆる「写ルンです」に代表される使い捨てカメラの質感です.
完璧すぎない,記憶の色
現代のスマートフォンのカメラは非常に高性能です.暗い場所でも明るく,細部までくっきりと写し出してくれます.それは素晴らしい技術ですが,時として「綺麗すぎる」と感じることはないでしょうか.
「写るんです」が記憶している風景は,必ずしもそこまでシャープではありませんでした.少しだけ粒子が粗く,強い光が当たった部分は白く滲んでしまう.そんな「完璧ではない描写」こそが,かえってその場の空気感や湿度,温度といった,目に見えないものまで写し込んでいるように感じられたのです.
「使い捨てカメラ」色調の微細な調整
「使い捨てカメラ」色調では,その「記憶の質感」を再現するために,以下のようないくつかの微細な調整を加えています.
- わずかな粒子感(グレイン): 写真全体に,フィルム特有のざらっとした質感をほんの少しだけ加えています.
- 優しい光の滲み(ハレーション): 強い光源(太陽や電灯など)の周りに,光がふわりと滲むような効果を加えています.
- 少しだけ温かい色味: 厳密なカラーバランスから,ほんの少しだけ色温度を上げることで,冷たい印象になりすぎないように調整しています.
これらの調整は,一つ一つは気づかないほど些細なものです.しかし,それらが合わさることで,ただの記録写真とは一味違う,どこか懐かしくて愛おしい「あの頃」の雰囲気が生まれるのです.
ありのままの風景を,ありのまま以上に,記憶に近い形で残す.それが,「使い捨てカメラ」色調に込めた秘密です.ぜひ,何気ない日常を,このフィルムで切り取ってみてください.


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